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【超訳 「検察定年延長 OB有志意見書」 2020年5月15日】


(超訳 「検察定年延長 OB有志意見書」 2020年5月15日)
以下の意見をとりまとめた私(清水勇男)は85歳です。高齢に加え、病気で身体の自由があまり効きません。本当は広く呼びかけて賛同者連名者を募りたいのだけど、仕方なく検察時代の親しい先輩、友人など、ごく少数のOBに呼びかけて起案しました。だって法案審議は時間が決まっているから、与党に強行採決され、成立してしまえばすべて終わりじゃないですか。時間との闘いなのですよ。本当は呼びかけさえすれば、もっと多くの検察OBが賛同してくれると思うのですが、身体の自由が効かないのでそれができず、悔しい。本当に悔しい。国民の皆さん、検察OBは今回の定年延長法案に対して、報道されているよりもずっと大きい、実に大変な危機感をもっているのですよ。この法案が通れば、OBである私たちや、現役の後輩たちが長年担ってきた検察という組織が終わってしまうという危機感を。「国民の信頼、期待に応える組織にしよう」と語り合い、自負し、矜持をもって努力してきた私たちが、そんなことを甘受できるはずがありません。どうしても許せないんです。だから私がこの意見書を書き、長年共に、「秋霜烈日」(秋の冷たい霜や夏の激しい日差しのような気候の厳しさの意味から刑罰・権威などが極めてきびしく、また厳かであるこのたとえ)の検察バッチを胸に、検察組織を担ってきたOBの連名で意見書を記し、代表して松尾元検事総長がそれを持ち、歩いて検察庁に行き、後輩検事に渡したんです。皆さん、あのニュース映像をご覧になりましたでしょうか。松尾さんも85歳です。私たちOBの深い危機感、こんな法案で検察を終わらせるわけにはいかないんだ、という熱い思いを、国民の皆さん、どうか分かっていただけないでしょうか。

1 東京高検検事長黒川弘務さんは、誕生日である本年2020年2月8日に、定年の63歳になって退官の予定でした。本意見書起草者の私、清水から見ると、黒川さんは22年後輩になるわけです。彼が新任検察官として検察庁に入った時、私も松尾さんも45歳ほどだったわけですよ。ご存知のように、黒川さんの誕生日(2月8日)直前の1月31日、彼の定年を8月7日まで半年間延長する閣議決定が安倍晋三内閣によって行われました。思えば、当時はまだ新型コロナウィルスによる感染拡大の影響が、今ほど全国に及んでいませんでしたね。いずれにせよそんなわけで、黒川さんは定年を過ぎた今でも、安倍首相の意向のため、本来なら辞めていなければならないのに、現職に止(とど)まっているのです。

 でもね、検察庁法では、定年は検事総長が65歳、その他の検察官は63歳とされているんです(同法22条)。だから定年延長を可能とする決まりは、検察庁法にはないんですよ。ということはね、どうしても検察官=黒田さんの定年を、63歳を超えて延長したいと安倍さんが言うのなら、そこは検察庁法を改正するしかないわけです。安倍内閣が国会に改正案を提出し、国会議員の過半数の賛同を得て、改正して延長するしかないんです。日本は法治国家なんだから。

ところが驚いたことに、安倍内閣はこの法改正の手続きをしないで、何と省略しちゃって、閣議決定だけで黒川君の定年延長を決定しました。これは国民の代表である国会議員の賛同を得ていないということですよね。ところで閣議決定だけと書きましたが、閣議って、毎週火曜日と木曜日、朝8時からあるんですけど、20名の閣僚全員が出席する会議です。国会に提出する法案をここで決めたりするんですけれども、でも閣議については、憲法上何の規定も記載もないのですよ。

新聞報道、テレビニュース、そして検察OB内での様々な情報を聞いてみると、これはそもそも、安倍晋三内閣が現検事総長稲田伸夫さんの後任に黒川さんを就任させようとしていた。だから黒川さんを検事総長にするために、稲田さんを遅くとも総長の通常の在職期間である2年が終わる8月初旬までに勇退させて、後任に黒川さんをもってくるための方便だ、と報道や検察OB内ではみんな言っているわけですよ。

情報筋曰く、4月20日に京都で開催されるはずだった国連犯罪防止刑事司法会議で、開催国を代表して稲田さんが開会の演説を行う予定だったそうです。それを花道として稲田さんが勇退し、黒川さんが引き継ぐという筋書きだったそうです。でも新型コロナウイルスの流行で会議が中止されたので、このシナリオは消えたんだ、ということだそうです。

 ともかく、この安倍晋三内閣の閣議決定による黒川さんの定年延長は、検察庁法に基づいていないんですよ。だから黒川さんの留任には法的根拠はないんです。つまり法律違反なんですよ。いいですか、皆さん、黒川さんは法律違反の状態で、何と東京高検検事長になっているんです。東京高検検事長って、事実上検察のNo.2なんです。他でもない、法律を執行する責任者の立場が、法律違反なんて、聞いたことがないですよね。

この点についてはね、さすがに酷い話で、見過ごしたら大変なことになるので、日弁連会長以下全国35を超える弁護士会の会長が反対声明を出しました。そりゃ、法律執行者が法律違反しているなんていうことがまかり通ったら、法律の秩序が崩れちゃうでしょう。だから弁護士会会長たちが反対したわけです。でも安倍晋三内閣はこの閣議決定を撤回しないんです。そして黒川さんの定年を超えての留任という異常な状態が今も続いているんですよ。

 2 検察官以外のね、一般の国家公務員についてはどうかと言うと、一定の条件の下に定年延長が認められているんです(国家公務員法81条の3)。安倍晋三内閣はこれを根拠に黒川さんの定年延長を閣議決定した、と言うんです。でも検察庁法は"国家公務員に対する一般ルール"である国家公務員法に対して、実は特別法の関係にあるんです。この二つの関係は「特別法が一般法に優先しますよ」って法の道理で決まっているんですよ。だから、検察庁法に決まりがないものは、一般ルールとしての国家公務員法が適用されますけど、逆に検察庁法に決まりがあるものは、検察庁法が優先的に適用されるんです。
で、今回騒動になっている定年に関してはどうかと言うと、検察庁法に決まりがあるんです。あるんですよ。そうすると当然、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されないわけでしょう。論理的に、これって当然ですよね。式で表すと、「検察庁法の定年ルール>国家公務員法の定年ルール」ってことですね。

このことはね、これまで、つまり安倍晋三内閣以前の、政府の見解だったんですよ、何を隠そう。合計26に及ぶ戦後の歴代政権全部の見解だった。

例えば昭和56年(1981年)4月28日、衆議院内閣委員会で、国家公務員法を所管する人事院事務総局斧任用局長はこう言ってます。「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」。ね、明言しているでしょ?ちなみに、「所管」て難しい行政用語なんですけど、要するに国家公務員法を解釈する権利は人事院が持っているっていうことなんです。法律は専門用語が多く、文法も複雑ですから、責任をもって内容説明できる役所が必要なんですね。国家公務員法については人事院がその中身の解釈に責任をもちます、ということです。ところが今回の問題では、人事院を代表して答弁に立っている松尾恵美子給与局長がブレにブレていましてね。安倍政権を気遣っているのか知りませんが。人事院(それに会計検査院)は、政府に対して内部からチェックを行う機関なんです(内部統制機関)。今回安倍さんは、「解釈を変更することにしました!」と言っているけど、そんなこと勝手に言ってはいけないのですよ。人事院は、自分のところの解釈権を安倍さんに奪われて黙っていていいのでしょうか。一宮なほみ人事院総裁は、内部チェック機関の総裁として「総理、それはおかしいですよ」とか、国会で何も言わないのでしょうか。やっぱり言えないか、女性初の人事院総裁に安倍さんから任命されたから。でも一宮さん、国家公務員法の解釈権、人事院が責任持ってしっかり行使してくださいよ。でないと、人事院の看板外せ、という声が出てきはしないかと心配です。名前に院が付く国家機関は、本来大きな権威をもつのですけど。

話は戻りますが、当時の人事院任用局長の答弁に反する国家公務員法の運用、つまり検察官の定年延長はこれまで1回も行われて来なかった。だから、この解釈と運用が定着しているんです。いや、いたんです、安倍政権までは。

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 ここからは少し、検察官や検事長という立場の重みをご説明します。検察官という立場は、犯罪者や法律違反者が逮捕された時、その者を起訴するか、それとも不起訴にするかの決定権を持つんです。これ、刑事事件について、裁判所へ審判してくださいよ、と申し立てをする行為だから公訴権と言うのです。で、何と検察は公訴権を独占し、同時に捜査権も持っています。いいですが、逮捕者や被疑者を裁判に訴える権利は、日本広しといえども、検察官にしかないんです。警察にはもちろんのこと、弁護士さんにもないんですよ。

捜査権なんですが、その範囲は広いのです。政財界の偉い人々であろうとも、法律違反をした場合には、当然捜査の対象となります。安倍内閣総理大臣であろうと(桜を見る会が弁護士、学者など関係者500名以上から、捜査してくださいよ、と東京地検特捜部=検察に訴えられましたよね)、菅官房長官であろうと、法務大臣経験者(選挙でお金を配ってしまい、現在捜査が進んでいる人もいます)であろうと、あるいはまた検察官その人であろうと。

だから、捜査権をもつ公訴官として、検察官の責任はそれは広く、それは重いんです。その時の政権の圧力で、本当は起訴しなければならない事件が不起訴にされたり(起訴とは違うけれど、TBS元記者で安倍政権のお友達と言われた人が逮捕を免れたとされる事件もありました。それと森友事件も本当はどうだったんでしょう、不起訴になったけど)、起訴に値しないような事件が起訴されるようなことがもし起きれば大変です。司法の基本理念、すなわち主権者国民が法に照らして見たときに「適正で公平だよね」と言えるかどうかという、この理念を失って、日本の刑事司法は崩壊することになりかねません。

このように、検察官の責務はとても重大なのです。検察官は、自分自身が捜査によって収集した証拠などの資料に基づいて、起訴すべき事件かそうでないかを決める役割を担っています。検察が立件(起訴)し裁判で闘う。法務省に属する行政官=検察官が司法の場で闘う。その意味で、検察官は準司法官(裁判官に準ずる人、というところでしょうか)とも言われ、司法の前衛(闘いの最前線に位置して頑張る)という役割を担っていると言えます。

 こうした検察官の責任の特殊性(他の職業にはないですから)、重大性(公訴権を独占する、捜査権をもつ、偉い人でも捜査する、起訴するかしないかを決める)のために、一般の国家公務員を対象とした国家公務員法とは別に、検察庁法という特別法を制定しているのです(特別法というのは、適用対象がより狭く、特定されている法のことを言います。逆に一般法とは、適用対象がより広い法のことをいいます。両者の区別は相対的ですけれど)。特別法には、検察官を政治の圧力などから守るために、検察官は検察官適格審査会によらなければ、本人の意思に反して罷免(ひめん)されない(検察庁法23条)、などの身分保障規定を設けています。これは、「あいつは逮捕するな」とか「あいつを捕まえろ」といった時の権力のプレッシャーに検察官が抵抗した場合、「俺の意に沿わない奴だから外してしまおう」などということが起きないように、検察庁法で身分を保証しているということです。だからこそ、安倍総理が国会答弁で言うように「検察官も一般の国家公務員であるから国家公務員法が適用される」というような、物事のうわべっつらしか見ていない解釈は成り立たないのです。安倍総理、分かる?

 3 本年2月13日衆議院本会議で、安倍総理大臣は「検察官にも国家公務員法の適用があると(いうことにできるよう)、従来の(適用ができないと言う)解釈を(国会での議決をせずに安倍内閣の判断だけで)変更することにした」などと述べました。これには検察OB一同、腰を抜かすほどたまげました。いいですか皆さん、この安倍総理の答弁は、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに、内閣だけで法律の解釈方法、運用のやり方を変更した、という宣言です。いや、ちょっと待ってくださいよ。そもそも内閣に、そんなことをする法律上の権限があるんですか?どの法律に書いてあるんですか?そんなことをやった為政者がいるんですか?といろいろ思案してみて、ようやく私たち検察OBは思い出したんですが、思い当たる例が一つありました。フランスの絶対王制を確立し、それまでの有力諸侯の中の取りまとめ役的な王ではなく、国家主権を体現する存在としてフランスに君臨したルイ14世です、ベルサイユ宮殿を作った。その言葉として伝えられる「朕(ちん)は国家である」との言葉があります。これは法治が確立した近代国家である日本の国民から見れば、中世の亡霊のような言葉です。昔はそんなとんでもないことを言えったものだね、今となっては時代錯誤だけど、という意味で亡霊です。安倍総理はその亡霊を思い出させるような考え方、つまり「我、安倍晋三こそは日本国だ、我こそは日本国の法の上に立つのだ」などと言い出しかねない姿勢を有しているのですよ。2020年の現在、国民の選挙により選ばれた政権与党の総裁、総理大臣が?まさか?本当に?
ああ、怖い。いやはや恐ろしい。これは近代国家の基本理念である三権分立主義(立法=国会、行政=安倍内閣、司法=裁判所  の分立)の否定にもつながりかねない、大変な危険性を含んでいます。ところで安倍さんにお聞きしますが、過去の国会答弁を見ると、本当はご自身を行政府=安倍内閣の長ではなく、立法府=国会の長だと考えているみたいだけど、本当にそうですか?自民党総裁である自分に、立法府で多数を占める自民党議員など従って当然、、あとは司法に対する支配だ、などと、考えてはいませんよね、もしかして。そういえば、安保法制の前にも、憲法9条の解釈を閣議で変えてしまったことがありました。安倍政権は2014年の閣議決定で、従来の解釈を変更し、自国が攻撃を受けたときに反撃する個別的自衛権に加え、集団的自衛権の限定行使を可能にしました。あの時、国会で横畠内閣法制局長官(当時)はその根拠を問われ「行政権は内閣に属する」から(閣議決定で解釈変更していいのだ)、と胸を張って答弁しました。でも、行政権は主権者国民から内閣に負託され、それにより内閣が行使するのですが。今回と同じ光景のように見えて仕方がありません。国会審議や国民投票をバイパスして、安倍内閣の独断専行、超法規措置で決めてしまうという光景です。

 時代背景は異なりますが、17世紀の高名な政治思想家ジョン・ロックはその著「統治二論」(加藤節訳、岩波文庫)の中で「法が終わるところ、暴政が始まる」と警告しています。今日風に言うと「検察庁法が終わるところ、安倍内閣の暴政が始まる」でしょうか。心すべき言葉ですよね。ロックは、イギリス人なんだけど、彼の思想はアメリカ独立革命の理論的支柱になったんです。ざっくりと言えば、立法府は国民がその生命自由財産を守るために選ぶのだから、立法府が国民の意に沿わず自ら絶対権力を握ろうとしたら、国民は立法府を変える権力をもっている、という主旨です。森雅子法務大臣、弁護士さんだけど、ロック読んだことあるかなあ。

 ところで、百歩譲って安倍総理の無理筋な解釈のように、国家公務員法による定年延長規定が検察官にも適用されると解釈しても、同法81条の3に規定する「その職員(検察官)の職務の特殊性、またはその職員(検察官)の職務の遂行上の特別の事情からみて、その(検察官の)退職により、公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分の理由があるとき」という定年延長の要件に該当しないことは明らかです。

 それに、人事院規則11―8第7条には「勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の1に該当するときに行うことができる」として、①職務が高度の専門的な知識、熟練した技能または豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき、②勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき、③業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が、当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき、という場合を定年延長の要件に挙げています。ちょっと硬くて難しいですね。
 これは要するに、その人でなくては絶対にだめ、他の人では代えられないということで、現在であれば新型コロナウイルスの流行を収束させるために必死に調査研究を続けている専門家チームのリーダー(尾身茂先生とか)で、その人が辞めちゃうと大変なことになる、後継者がすぐには見付からない、というような場合が想定されます。

 では現在、検察には黒川さんでなければ対応できないというほどの事件、問題があるのでしょうか。例として引き合いに出される(会社法違反などの罪で起訴された日産自動車前会長の)ゴーン被告逃亡事件についても、黒川さんでなければ、言い換えれば後任の検事長では解決できないという特別な理由があるのでしょうか。法律によって厳しく決められている役職定年を延長してまで、検事長に黒川さんを留任させるべき、法律上の要件にピタリと合う理由はとてもなさそうです。安倍さん、もしそんな理由があったら「国民のご理解を得られるよう丁寧に説明」してください。

 4 4月16日、国家公務員の定年を60歳から65歳に段階的に引き上げる国家公務員法改正案と抱き合わせる形で、検察官の定年も63歳から65歳に引き上げる検察庁法改正案が衆議院本会議で審議入りしました。この、元々の各種法案を何本でも抱き合わせて、全部まとめて1本ということに無理くりして「はい、これだけを審議してください」と国会に提出するやり方は、第二次安倍政権(2012年12月)からの十八番です。今回は元々10本の法案をまとめてしまっています。安保法制の時には11本を2本にまとめました。なぜまとめてしまうのでしょうか。審議の時間を短くでき、早く成立させられるからです。審議時間が短くなれば、大臣の失言答弁も起きないし、何よりワイドショーなどを通して世論の反対が盛り上がるのを防げるのです。法案審議、とりわけ国民に人気がない法案は時間との闘いですね。

野党側が前記の閣議決定(黒川さんの定年を法律改正せずに延長する)の撤回を求めたのに対して、菅義偉官房長官は必要なしと突っぱねて、既に閣議決定した黒川さんの定年延長を維持する方針を示しました(管さん、この法案って、黒川さんを高く評価する管さんの肝煎りだと言われていますが本当ですか?最近政権内で孤立しているって本当ですか)。こうして同氏の定年延長問題の決着が着かないまま、今度は検察庁法改正案の審議が開始されたのです。

 この改正案中重要な問題点は、検事長を含む上級検察官(検事長と次長検事のこと)の役職定年延長に関する改正についてです。すなわち同改正案には「内閣は(中略)年齢が63年に達した次長検事(事実上の検察No.2、検事総長のすぐ下にいる)または検事長(同じくNo.2またはNo.3、東京・大阪・名古屋・広島・福岡・仙台・札幌・高松の8か所にある高等検察庁のトップ計8名)について、当該次長検事または検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して(仕事上の事情を考慮して)、当該次長検事または検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは、当該次長検事または検事長が年齢63年に達した日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該次長検事または検事長が年齢63年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせることができる(後略)」と記載されています。
 難しい条文ですが、要するに次長検事と検事長は63歳の職務定年に達しても、時の内閣が必要と認める一定の理由があれば、1年以内の範囲で定年延長ができるということです。ところで黒川さんがもし検事総長に就任した場合には、事実上68歳までその職に留まることができると、法務省は国会答弁で認めています。本来、検事総長の定年は65歳なのにですよ。そうか、検事総長は3年延長できるのか…

 注意すべきことは、この決まりは時の内閣の一存で次長検事および検事長の定年延長が可能となる内容でして、前記の閣僚会議によって黒川検事長の定年延長を決定した違法な=国会の議決を経ていない=つまり国民の代弁者である国会議員の意見を聞かず、議論をさせず=内閣だけで法律を無視して勝手に決めた決議、を後追いで容認しようとするものだということです。これまで政界と検察との間には、検察官の人事に政治は介入しないという確立した慣例があり、その慣例がきちんと守られてきました。歴代の26政権、つまり吉田、鳩山、石橋、岸、池田、佐藤、田中、三木、福田、大平、鈴木、中曽根、竹下、宮沢、細川、羽田、村山、橋本、小渕、森、小泉、福田、麻生、鳩山、菅、野田政権、では守られてきたのです。これは「検察を政治の影響から切りはなすための知恵」とされています(元検事総長伊藤栄樹著「だまされる検事」)。検察庁法は、組織の長(検事総長)に事故があるときや、欠けたときに備えて臨時職務代行の制度(同法13条)を設けており、定年延長によって検事総長の不在に対応することなど全く、これぽっちも想定していなかったし、これからもそうなのです。

 今回の安倍内閣による検察庁法改正は、歴代の政権ではあり得なかった、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺(そ)ぐことを意図している、安倍総理その人が目論んでいる、と私たち検察OBには考えられるのですよ。

 5 かつてロッキード世代と呼ばれる世代があったのです。知っていますか?それは、ロッキード事件の捜査、公判に関与した検察官や検察事務官ばかりでなく、捜査、公判の推移に一喜一憂しつつ見守っていた多くの関係者、広くは国民大多数でした。振り返ると、昭和51年(1976年)2月5日、某紙夕刊1面トップに「ロッキード社がワイロ商法 エアバスにからみ48億円 児玉誉士夫氏に21億円 日本政府にも流れる」との記事が掲載され、翌日から新聞もテレビもロッキード関連の報道一色に塗りつぶされて日本列島は興奮の渦に巻き込まれました。今から45年ほど前のことです。

 当時東京地検特捜部にいた若手検事の間では、この降って湧いたような事件(アメリカ議会上院外交委員会の多国籍企業小委員会に、ロッキード社の事務員が社内秘密資料を間違って送ってしまったことから発覚)に対して、特捜部として必ず捜査に着手するという積極派や、着手すると言っても贈賄の被疑者は国外在住のロッキード社の幹部が中心だし、証拠もほとんど海外にある、いくら特捜部でも手が届かないのではないかという懐疑派、苦労して捜査しても(1954年に犬養健法相が指揮権を発動し、与党幹事長だった佐藤栄作氏-岸信介元総理の弟、安倍晋三氏の大叔父-の逮捕中止を検事総長に指示した)造船疑獄事件のように、指揮権発動でおしまいだという悲観派が入り乱れていました。

 事件の第一報が掲載されてから13日後の2月18日検察首脳会議が開かれ、席上、東京高検検事長の神谷尚男氏が「いまこの事件の疑惑解明に着手しなければ検察は今後20年間国民の信頼を失う」と発言したことが報道されるや、ロッキード世代は歓喜しました。後日談ですが、事件終了後しばらくして若手検事何名かで神谷氏のご自宅にお邪魔したときに、この発言をされた時の神谷氏の心境を聞いた。「(八方塞がりの中で)進むも地獄、退くも地獄なら、進むしかないではないか」という答えでした。

 この神谷検事長の国民信頼発言でロッキード事件の方針が決定し、あとは田中角栄氏(田中派、新潟3区)ら政財界の大物逮捕に至るご存じの展開となりました。時の検事総長は布施健氏、法務大臣は稲葉修氏(中曽根派、新潟2区)、法務事務次官は塩野宜慶(やすよし)氏(後に最高裁判事)、内閣総理大臣は三木武夫氏であった。

 特捜部が造船疑獄事件の時のように指揮権発動に怯(おび)えることなく、のびのびと事件の解明に全力を傾注できた理由は、検察上層部の不退転の姿勢、それに国民の熱い支持と、捜査への政治的介入に抑制的な政治家たち、特に三木武夫総理と稲葉修法務大臣の存在でありました。稲葉法相は休日、釣りをしている時に検察首脳会議で田中角栄逮捕が決定されたと報告されそれを許可した、と伝えられています。
また、当時国会で、捜査の進展状況や疑惑を持たれている政治家の名前(田中角栄、中曽根康弘幹事長、二階堂進元官房長官、橋本登美三郎元運輸大臣、佐々木秀世元運輸相、福永一臣自民党航空対策特別委員長、加藤六月元運輸政務次官など)を明らかにせよと迫る国会議員に対して、捜査の秘密を楯(たて)に断固拒否し続けた安原美穂刑事局長の姿が思い出されます。

 しかし検察の歴史には、(大阪地検特捜部の)捜査幹部が障害者郵便制度悪用事件で押収資料(フロッピーディスク)を改ざんし、検察の都合の良い方向に操作を誘導するという、天を仰ぎたくなるような恥ずべき事件もありました。厚生労働省元局長・村木厚子(その後事務次官)が冤罪で逮捕された本事件、その担当主任検事であった前田恒彦、および上司の元特捜部長・大坪弘道、元特捜部副部長・佐賀元明(いずれも当時の役職)の検事3人による、本事件での職務遂行が犯罪の疑いをかけられ、逆に最高検察庁に被疑者として逮捕されるという極めて異例の事態になりました。私たちOBは改ざんの報に接し、激怒し、悲しみました。一方で、後輩たちがこの事件がトラウマとなって弱体化し、きちんと育っていないのではないかという思いもあります。それが今回のように政治権力につけ込まれる隙を与えてしまったのではないかと懸念しているのです。検察は強い権力を持つ組織として、あくまで謙虚でなくてはならないのです。郵便制度悪用事件では、村木厚子さんは寒風吹き荒ぶ大阪拘置所で5ヶ月に及び拘置されました。こんなことは決して許されません。検察官は、主権者国民の期待と信頼に応え、法に基づき公訴権と捜査権を行使するという原則を忘れてはならないのです。

 しかし、検察が萎縮して人事権まで政権側に握られ、起訴・不起訴の決定など公訴権の行使にまで、政権から干渉や制約、拘束を受けるようになったら、検察は国民の期待と信頼に応えられません。時の政権の意向に関わらず、安倍総理から法に反して命じられることに左右されず、正しいことが正しく行われる日本の国家、社会でなくてはなりません。

 黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く、安倍内閣による一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に変えさせようとする動きであり、ロッキード世代として決して見過ごせないものです。日本国の主権者である国民、国会議員、司法、報道などの関係者が、この検察庁法改正の問題を正しく理解され、安倍内閣がこの改正法案の中で、検察幹部の定年延長を認める規定をきっぱりと撤回することを強く期待し、願い、求めます。もしそうではなく、安倍晋三総理が、どうしても定年延長規定を法案から外さない、検察OBが意見書を提出しようと反対の声を上げようと、そんなものは関係ないんだ、というのであれば、与党野党の境界を超えて多くの国会議員と法曹人(弁護士、裁判官OB、検察OB)そして心ある国民すべてが、この検察庁法改正案に断固反対の声を上げて、これを阻止する行動に出てほしい。私たち検察OBはこれから毎日、毎晩、それを繰り返し願います。日本国民の皆さん、どうか法案に反対の声を上げてください。Twitterで、Youtubeで、LINEで、Facebookで、HPで、ブログで、街頭で、あなたの反対の声を上げてください。日本は民主主義国家です。主権者であるあなたが国会議員を選ぶのです。総理を選ぶのです。あなたの声が、日本国の国政なのです。民主主義国、日本の国民として、この法案の成立を、私たち検察OBとともに止めようではありませんか。
(超訳文責 前参議院議員 風間直樹)

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